Y-HOUSE
八ヶ岳山麓に建つ、音楽ホールを持つ別荘の計画です。
この地域は冬の寒さが非常に厳しく、積雪や氷柱によるトラブルが多発するため、建築物には凍害に強い、勾配の大きな屋根を用いる必要があります。勾配屋根は屋根構造をかけるのに適した平面形と組み合わせなければならず、雪が最短距離で滑り落ちるような簡潔な勾配屋根をつくる為には、建物のプランもそれに適したシンプルなものが必要となります。
その一方で音楽ホールを持つ性質上、この別荘には家族以外にも様々な来客が訪れることが予想されます。複数の来客に宿泊とコンサートという性格の異なる機能を用意する必要から、建物は機能ごとに多少心理的距離を置いた、やや離散的な形式が求められることになりますが、そのような平面構成は複雑になりがちで、シンプルな屋根との両立は容易ではありません。また、敷地は全周を森に囲まれているためはっきりした方向性を持っておらず、際立って良い景観が無い代わりにどの方向にも美しい緑が広がっており、建物自身にも何らかの全方位的な性格を持たせることがこの土地に相応しいのではないかと考えられました。
そこで建物の各機能を単純な長方形平面のブロックに納めて、各長方形の角をぐるりとリング状につないで一周させるというアイディアが提案されることになりました。これによって各ブロックは切妻屋根を載せやすい単純な形でありながら、全体としては機能ごとに相応の距離をとり、それぞれが別々の方向を向き異なった景観を持つ全方位的な建物になります。同時に建物は一つの大きな輪を形成しており、分散しようとする各機能を再統合し来客同士の交流を促す、完結した求心力も併せ持つことが期待されています。