2012.12.30
今年最後の金沢現場監理へ行ってきました。年末のご挨拶を兼ねて、進捗をご報告します。



今年の金沢は例年より冬の訪れが早く、荒れ模様の天気が続いています。屋根や防水の工事を行うよりも先に雪が降り出してしまったために作業のし易い屋内が作れず、工事の進捗は遅れ気味です。



建物はおおよその形が出来上がりつつあります。とはいえ、これはまだ外壁の下地と防水紙を貼っただけ。外壁を作って作業空間を確保することを優先しているために、まだ窓の開口は空けられていません。光を絞って計画された建物ですが、しばらくはさらに暗い状態が続きます。



建具屋さんが、材料の切れ端で窓のモックアップを作って下さいました。切れ端とは言え材料は本物、ずっしりとした重厚な窓が出来そうで楽しみです。



滞在中に、二階テラスのFRP防水が始まりました。テラスなのでもちろん屋外なのですが、あまりに天候が悪く作業が進まないため、一時的にシートを掛けて屋内空間にしてしまっています。なかなか幻想的!

工事のこのくらいの段階は、完成が近づくに連れて失われて行く「建物の別の姿の可能性」が垣間見え、ハッとさせられることが多々あります。板が貼られる前の床から差し込む照り返しの光、壁で遮られる前の広い空間など、様々な可能性が失われて行くのと引き換えに建物は少しずつ実用性を獲得して完成に近づいて行きます。人間と同じですね。来年また来る頃には、もう少し成長した姿を見せてくれることでしょう。



振り返ると、2012年はTIFF AWARDの受賞に始まり、OZONEでの「住まいの惑星」展、金沢の着工、岡崎のスタート・・となかなかトピックの多い一年にすることが出来ました。来年はもちろん金沢の竣工が最大のイベントになりますが、その他にも既に幾つか全く新しい動きが予定されています。おいおいこのブログで紹介して行きたいと考えているので、是非引き続きご愛顧頂ければと思います。

それでは、よい年をお迎え下さい。今年一年間、ありがとうございました。



2012.12.30
 2012.12.22
このたび、愛知県岡崎市で新しいお仕事をさせて頂くことになりました。敷地を見る為にスタッフと共に車を飛ばして岡崎へ! 学生時代に友人宅を訪れて以来10年ぶりになります。



岡崎と言えば徳川家康の生地として有名!だと思うのですが、何県?と聞き返されることが多くて少し意外です(郵便局でも訊かれた)。愛知県と言ってしまうと尾張ではなく三河だという微妙なニュアンスが伝わるかどうか・・。



とは言えミソカツ・ミソ煮込みうどんなど、いわゆる愛知の名物にもいつか出会えるだろうと楽しみにしていたのですが、機会は意外に早く、到着早々建主さんに「二橋」に連れて行って頂きました。その筋では有名店だそうです。確かにうまかった!ちなみにうどんにお冷やがついていますが、これも重要なポイントです。



午後は不動産屋さんの案内で敷地へ。境界線のチェックなど、権利関係の確認を済ませました。写真手前のお二人が今回のクライアント、Nさんご夫妻です。

事前の天気予報では雨だったのですが、幸い予報は外れ快晴に恵まれた一日となりました。敷地と初めて出会うのにこれ以上の日はありません。



敷地は新たに造成された土地で、北に向いて5mほどの高低差がありました。景色の良い高台での物件にはこれまで巡り会うことがなかったのですが、ついに景観で勝負出来る敷地での仕事になります。



近くのマンションに上って、敷地周辺を見渡してみました。



小高い丘をはさんで乙川という岡崎の中心を流れる川に面しており、夏には花火大会を眺めることも出来るそうです。

景観の良さはこの敷地の大きな特色の一つですが、一方で景観を捉まえるタイプの物件は誰が処理しても似たような考え方になってしまう難しさもあり、何か独自の切り口を探したいと考えています。花火は、そのためのヒントの一つとなってくれるかも知れません。



本プロジェクトのもう一つの特色は、専用住宅ではなくカフェを併設している点です。Nさんの奥様はオーガニックな食生活に関心が深く、料理も得意だということでそのようなライフスタイルを発信出来るお店をやりたいと考えておられたのだとか。お店はコンセプトからメニューに至るまで構想が進んでおり、実は店名も既に決まっています。名前は「Cafe Organica」、是非人気店になるよう我々もお手伝いをさせて頂きたいと思っています。ちなみに上の写真は夕食にご馳走頂いた奥様の手料理、焼いた蕪の上にオイルサーディンと柚子胡椒が乗っています。おいしそうでしょう!器や箸置きもいいですね。

店舗のお仕事は弊事務所でも初めてで(アトリエ・ワン時代に理髪店を担当して以来)、住宅としてもお店としても売り出せるなんて素晴しい!ととても楽しみにしています。お互いにとってこの出会いが幸福なものであったと振り返れるよう、頑張らなければいけません。まだ始まったばかりのプロジェクトですが、折りに触れて経過をお伝えして行きたいと考えています。

2012.12.22
 2012.12.14
芝浦工業大学非常勤講師編、後半です。



提出一週間前の時点では半分くらいの学生がまだプランも決まっていない状態でしたが、不思議なことに講評会の時点では殆どの学生がちゃんと模型と図面を用意出来ています。昨年は驚いたものですが、今年はさすがにある程度予想していました。それにしても、先週まで影も形もなかった大量の模型が雨後のタケノコのように発生したことを思うとやはりなんとも奇妙な気分にさせられます。



一方、今回の課題は三年生にとってはかなり難しいものになるだろうとも想像していましたが、そちらの予想もほぼ的中してしまいました。提案の内容がインテリアの変更に留まるものが多く、建築的な操作に到達出来ていない作品が半数を越えていたように思われます。



この傾向にはエスキスの途中辺りから気付いていたのですが、やはり最終的な作品もそこから抜け出すに至っていません。和風料理屋・ネットカフェ・公民館・和菓子屋などさまざまな提案が現れましたが、概ねインテリアの間仕切りを変えれば事足りてしまうような用途が多く、むしろ改築の必要性を疑問視したくなるようなものが少なくありませんでした。

理由は幾つかありますが、一つには年月を経た建物ということで、文化遺産的な意味合いから多くの学生が大胆な外科手術をためらったこと、もうひとつには木造の建物ということで構造を損なわないよう先生方から指導があったことが挙げられるでしょう。我々実務者にとっては制約が多いことは必ずしも悪いことではないのですが、学生にとっては手足を縛られたような苦しさがあったのかも知れません。



より個人的な意見としては、マジメな人ほど苦しんでしまったかなあ・・という思いがあります。上述したように今回の課題は様々な面で制約の多いものでしたが、マジメな人は制約を真正面から受けとめてしまったが故にその範囲内でしかアイディアを考えることが出来ず、身動きがとれなくなってしまったように感じられます。反対に、協同会館のバックグラウンドや意味に関心を払わず、興味の趣くままに面白そうな形を作って来た学生の方がのびのびと設計出来ており、経緯を知らずに作品だけ見ると後者の方が面白い提案をしているように見受けられました。

建築の設計というものは必ずしも実直に積み上げた方がいいものが出来るとは限らないので、その意味ではこのような結果は起こり得ることなのでしょう。しかし、私としては正面から課題に取り組んだが故に迷路に迷い込んでしまった学生を励ましヒントを与えたいという思いがあり、講評を文章にまとめるよう依頼された際には迷わずこのことを主題としました。以下、学科のイヤーブックに掲載予定の講評文を載せようと思います。文字数制限が厳しかったので語調はぶっきらぼうですが、今回あまり上手く行かなかった学生諸君はエールのつもりで読んでもらえればと思います。

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概して言うと、恊働会館のサイズ・意匠・空間に合わせて用途を考えた学生は、実直なアプローチであったにも関わらず(或いはそれ故に)生き生きとした物語を描き出すことに成功していない。このことは、図面を描こうにも手が動かなかった本人自身が痛感していることと思う。建物の現状にしっくり来るテーマを選べば選ぶ程、恊働会館を修復以上に改築しなければならない積極的理由が失われ、提案が萎縮し内装変更の範疇を越えられなくなってしまうのだ。

むしろ多少乱暴であっても、物語を駆動する力を与えることに重点を置くべきであった。例えばFacebookの日本支社を持って来てはどうだろうか?あるいは恊働会館の上に20階建ての集合住宅を作るとしたら?明らかに無茶な設定だが、だからこそ建築に求められる要求が明確になり、それを如何に克服するかがさらに物語を動かす可能性がある。設計する自分自身を含めた多くの人々をインスパイアする力強い物語とは何かをこの機会に考え、その経験を卒業設計に生かしてほしいと考えている。

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2012.12.14
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