二階のない中庭の家
東京都内の静かな住宅地に新しい家を計画するにあたり、頂いた依頼は中庭式の住宅を、というものでした。私たちが思い描いたのは、中庭が空に浮かぶイメージです。
周囲は起伏に富んだ地形と日当たりの良さが人気の低層住宅地で、街並みは穏やかで空が広く、決して中庭がふさわしくない土地ではありません。とは言え、周囲を囲む住宅は密度が高く三階建も含まれており、セオリー通りの地面を囲む中庭式住宅では隣家から見下ろされて中庭が丸見えになってしまいます。これを避けるため中庭の周りに壁を巡らせると、今度は中庭が暗く息苦しい空間になってしまう恐れがありました。
逆にこの街並みから少しだけ頭を出してなるべく高い位置に中庭を配置することが出来れば、さぞかし広い空を楽しめる爽やかな家が出来上がるだろうと考えました。隣家を気にする必要のない三階の中庭を持ち、その中庭に面した居間を主な生活空間とすることで、空と共に暮らすライフスタイルを提案することが可能になります。
その一方、生活されるのはお二人のカップルなので大きな床面積は求められていません。住宅を三階建てとすると規模が大きくなり過ぎてしまうことから、我々はこの住宅の二階を無くして、一階と三階だけの家とすることにしました。三階には居間と中庭からなる大きな空間を置いて生活の中心とし、一階にはそれらをバックアップする水回りや寝室、お二人それぞれの仕事部屋など小さく分割された空間を配置して、三階の空間を下から支える役割を持たせています。
その結果、一階は小さな部屋で構成されているにも関わらず二階が無いことで天井が高くなり、通常のほぼ倍の高さ、主要な空間である三階の居間よりも高い4mの天井を持つ空間となっています。高い窓から差し込む光のおかげで採光も良好になり、一階には明るく心地よい仕事部屋が中庭下部のヤマボウシの樹を挟んで二つ並ぶことになりました。
このような天井高さと空間の性質との関係は通常逆であり、大きい主生活空間の天井が高く、小さく分割されたバックアップ空間の天井が低くなるのが一般的だと思います。しかし、我々はこの関係の逆転をむしろ面白いと感じ、この構成を空に浮かぶ庭と組み合わせることで、住み心地の良い空間が作れるのではないかと考えました。隣家に常に近接した都市の中庭式住宅に対するアプローチとして、一つの可能性を示すことが出来ていれば幸いです。