三万冊の本の家
東京都内に建つ二世帯住宅です。二つの住戸の間に挟まれた大きな書庫が特徴であり、その収納量は全体で書籍三万冊分、小さな公立図書館なみの数量だと考えて頂くとイメージがしやすいかも知れません。
この書庫は、両家の間に少し距離を置くための緩衝地帯であると同時に両家の共有財産であり、また二つの家をつなぐ紐帯でもあります。敷地周囲では北東方向と南西方向に家並みが途切れているため書庫両端の採光面二つはそれらの方向へ45°角度を振って向けられており、書庫が家全体を斜めに横断するように計画されています。この二つの採光面からの視界をより広く確保するため、建物はこれらの部分でチーズのように大きく三角形に切り取られており、その結果ニッチ状の屋外空間が二つ出来上がることになりました。これら三角形ニッチは書庫の採光のために作られた空間ですが、同時に二つの住戸の庭でもあり、書庫と親世帯、書庫と子世帯がそれぞれ共有する屋外空間となっています。二世帯住宅において各住戸をどの程度独立させ、一方でどの程度緊密な関係を持たせるかは常に問題となるテーマですが、この住宅では緩衝空間として書庫を挟んだだけでなく、書庫のために作られた二つの庭を経由して両住戸が間接的につなげられており、お互いの生活が直接目に入ることはないもののぼんやりと動向が感じられる、そのような距離感を両家の間に作り出すことが意図されています。
書庫は単に本を収納するスペースというだけではなく、この家で最も豊かな、建物を代表する空間でもあります。通常は本の保護のため通気扉が閉ざされ、日光や外気が直接書庫に入らないように計画されていますが、必要に応じて扉を大きく外部へ開放し、曝書を行うことが可能な構造になっています。気候の良い時分には扉を開けて空気を入れ替えながら、たくさんの蔵書に囲まれた贅沢なひとときを開放感と共に過ごして頂きたいと考えています。