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さてさて、今年も無事早稲田大学建築学科2年設計演習の授業を終えることが出来ました。半期恒例、今年後半の学生作品をご紹介しましょう。「これが建築学科の授業?」と思われる向きも多いかと思うので、初めての方は良かったら下記リンクをご参照下さい。 http://takuroyama.jp/blog/blog201407.htm http://takuroyama.jp/blog/blog201402.htm
トップバッターはこの辺りから行こうかな。津島英征くんの作品でタイトルは「人間椅子」、課題「Replacement of Material」に対する提出作品です。
課題の趣旨はタイトルそのまま、何か身の回りのものの材料を置換することで面白い発見をして欲しい!というものですが、津島くんはこの問いに対して文庫本のページを透明にすることで応えてきました。
これが「赤毛のアン」とかそんなのだったら面白くもなんともないのですが、江戸川乱歩の短編を持って来たところが作品のミソ、作者の才気を感じる事が出来ます。江戸川乱歩であればその結末はかならずグロテスクかつ読者の意表をついたものであるハズ・・。そんな予想を持って透明のページが作る文字の重なりを見てみると、むしろ見え隠れする文章の向こうに見通しの利かない不気味な何かが存在することを想像せずにはいられません。材料を透明にすることで逆説的に乱歩の混沌とした世界を表現し切った、知的かつ切れ味のある作品だったと思います。表現も過不足なく、自分のやっていることの意味を十全に理解しているらしきところも好ましい。
下写真も同じく課題「Replacement of Material」から、こちらは竹脇右玄くんの作品。喫茶店でよく見かけるピカルディのガラスコップ、これの材料を置き換えてコンクリート製のコップを作っています。
シリコンで型を取ったらしく、非常に緻密な仕上がりがこの作品の重要な側面であることは勿論ですが、一方で面白い作品というのは、単に「課題で言われた通り材料を置換しましたよ」というものではありません。やはりそこに何か発見や主張があるものです。
この作品の最も重要な点は、それまであまりに見慣れすぎていて何とも思わなかったグラス(1個168円くらい)の材料が置き換えられたことで元々のグラスが持っていたデザインの美しさ、そして日常的な工業製品が実は持っている非日常的な高い精度が明らかにされ、再発見されているところでしょう。いわば彼はコンクリートのグラス(?)を作っただけでなく、元々あったグラスを逆照射して新しい命を与えたわけで、それこそがこの作品の真の意義だと言うことが出来ます。当たり前の日常がそれまでと少しだけ違って見えるようになる、そのような契機を提供できる作品はザラにあるものではありません。一方で作者の説明を利く限りでは、本人は精度以外に自作のポイントをあんまり分かってなかった可能性がありますが・・。
さてさて、うってかわってドローイングの作品。課題「時の肌理」に対する、Yazid Rahamalia Aufaさんの作品です。
アラビア語によるカリグラフィー。と言ってしまえばそれまでなのですが、余白の使い方が非常に上手い(実際の作品はもっと余白があるのですがちょいと割愛)。なによりも「読めない文字」の魔力とメッセージ性というのは実に面白いテーマで(本人はインドネシア人、一応アラビア語も読めるそうですが)、「何かを伝えようとしているけど内容は分からない」という状況を作り出すことは形を通じたコミュニケーションにおいてとても有効な技術ではないかと考えさせられました。この作品を見ていて来年の出題案を一つ思いついたということもあり、個人的にかなり印象深い作品のひとつです。
ところで書いていて気づいたのですが今回のセレクト作品は白黒のものばっかりですね・・。意識したわけではないんだけど、ひょっとして山本の趣味なのか?作品はいいのに、画面はなんだか地味だぞ・・。
という流れで極めつけの地味作品を紹介しましょうか。課題「Think Border / Barrier 境界・結界の考え方」に対する矢口彰久くんの作品、地味というよりこの絵(↓)じゃ何が何だかさっぱり分からない。
実はこの作品、アンケートの形式で冒頭に「あなたは支持しますか?」と質問が書かれ、その回答の選択肢が列挙されているのですが・・
アップにするとこんな感じ、順序関係の不明瞭な表現が延々と続くことで支持する←→支持しないのグラデーションが表わされています。その副詞表現の曖昧さはまさに日本人的、境界の不在を暗に示すやり方としてとても巧みです。これをドローイングと呼んでいいのか?どうかは考えが分かれるところかも知れませんが、シニカルなウィットに富んだ作品であることは意見の一致するところでしょう。
次の作品、こいつも黒いな・・。作者は北岡航くん、課題は同じく「Think Border / Barrier」です。
パッと見は鉛筆で塗り分けられ、不思議な外形に切り抜かれた地味な平面。よく見ると右下の切り込みには小さな丸がくっついて、この部分は慎重に切り残されているということに気づかされます。どういうことか分かるかな・・。
実はこういうことですね。一見平面上の塗り分けに見えるものが実は非常にダイナミックな立体であったという発見。山本は少年野球をやっていた頃にキャッチャーだったのでこのアングルには生々しい実感を感じることが出来ます。切り残された小さな丸はおそらくボール、それがポール(紛らわしい)と言う境界にギリギリ触れている事実を緊張感を持って表現するために、ボール以外のファウルゾーンを切り取ってしまっているんですね。あえて立体を感じさせるような表現を最小限に抑え、パースペクティブである事を見る側に発見させるような操作を行った点(例えば芝生とか土とかを具体的に描いてしまっていては、面白くもなんともならなかったでしょう)、鋭い直感を感じさせる作品だと思います。そういう意味では単純に空を青、芝を緑としなかったのは大正解なんだけど、さすがにもう少し華やかな絵にすることは出来たんじゃないかな・・というところが心残り。例えば全然違う色にしてしまうとかね。
さてさて次は山本出題の課題、タイトルは「非スーツ的就職活動」。設計演習的なアイディアを駆使し、初対面の人間の関心を勝ち取るアイテムを開発せよ!をテーマとしたものです。就職活動はおそらく学生諸君にとって大きな関心事だと思うのですが、クライアントを魅了して仕事を勝ち取らねばならない我々にとってもこれは他人事ではありません。この課題では、新しい試みとして各自60秒のプレゼンテーションをやってもらいました。
そんな課題に対する作品、勝手に名付けて「出る釘スーツ」、作者は野村祥子さん。
こんな服着た人が面接で「失礼します」とか言って入って来たらどうしよう・・。本人談によるとあたしは出る杭だけど打たれないぜ!というアピールのためにつくったのだとか。プレゼンテーションも堂々としており、本人のキャラとも相まって理不尽な存在感バツグンでした。
山本は概してキチンと説明のつく作品を好む傾向が強いのですが、たまにこういう理屈を吹っ飛ばすような作品を見るとこちらも考えさせられるものがあります。ひょっとしたら何かを勝ち取るためには「他との違いを示す力」が必要で、それはこのように説明出来るものとはちょっと違った形を取っているのかも知れません。俺も変な服着てクライアントに会いに行くかなあ。
次は課題「こびとの家」から、田辺一己くんの作品。こんなタイトルではありますが決してメルヘンチックな課題ではなく、スケールのズレを利用したユニークな「家」を作れないか?という趣旨、イメージとは裏腹にかなり建築的な課題と言えます。
この作品、まるでボードゲームのようなグリッドに沿って溝が掘られており、各マスには老若男女様々な人物像がデフォルメされて配置されています。そしてそれらを覆うように配置された二つの透明ケース、一つは家形で一つはビルのような形をしています。
この作品のポイントはおそらく家形がグリッドにそって着脱が可能で、移動させることが出来るようになっているところにあるのでしょう。つまり4マスを占める家形を移動させることで、そこに囲われた「家」の構成員を変化させることが出来るような仕組みになっています。
「家族」という人間集団が入れ替え可能なものであると言っているのか、あるいは「家族」という単位そのものに何らかの疑問符を突きつけているのか・・様々な解釈が可能ですが、少なくとも何らかの批評意識が根底にあることだけは間違いないと考えていいでしょう。必ずしも課題趣旨に対する直球の回答ではありませんが、作品が課題意図の範囲に納まる必要はなく、むしろ出題者の意図を越える作品に巡り会えることは我々講師陣にとっての喜びでもあります。
さてさて最後は映像課題。これはオススメ、締めくくりは笑って終わりましょう。課題「湿度 2/5」に対する作品、作者はナングンヒョックくんです。
これは写真だけを見ても仕方ないですねえ。何はともあれ、以下設計演習HPへのリンクから映像をご覧になってみて下さい。ただし、デフォルトでは音が消された状態になっていることがあるようなので、是非音が鳴るようにしてからお試し下さい。重要なポイントです。 http://2014ensyu-bc.blogspot.jp/search/label/C4
如何でしょうか!このどーでもいいテーマと妙にシリアスな音楽のミスマッチ、畳み掛けるように繰り返す濡れティッシュ(?)の落下、落下と音楽が同調と破調を微妙なところで行き来するバランス感覚、何よりもそれらをまとめ上げてしまう構成のセンスがバツグンです。山本はこの映像をゲラゲラ笑いながら何度見た事か・・。
彼は他の作品でも微妙な悪意ある無意味さを好んでテーマとしており個人的に気になる人だったのですが、ここでは無意味さを品のいいユーモアに昇華させることに成功しているようですね。この作風を磨く為には、一度本当に映像の勉強をしてみても面白いかもよ。
というわけで設計演習の講師2年目もあっという間に過ぎ去ってしまいました。毎週水曜日は朝起きると「演習だ!」とテンションが上がる日々だったのですが、それも春までしばらくお預けです。今のうちに仕事をちゃんとやっておかないと・・。
そして今年限りで講師を退任される安東先生、伊原先生、一年間ありがとうございました!この年になるとなかなか友情と呼べる人間関係を築けることは少なくなるのですが、授業後に集まっては酒を飲む我々の間柄はまさしくそんな言葉に当てはまるものだったと思います。是非また飲みに行きましょう!そして入江先生、来年もよろしくお願い致します!
2015.02.08 |
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