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「八ヶ岳の山荘」の設計案が固まりつつあります。少し前から実施設計の段階に入りました。
上は建物現在案の外観CGです。八ヶ岳山麓のゆるい勾配のある敷地で、絵では省略されていますが実際には森と言っていい程の密度で樹木が生えています。
6月26日のブログでも少し触れましたが、この建物のテーマは屋根であり、それらが放射状、あるいは環状に配置されたプランが特徴です。
一般に、山荘など森林に囲まれた建物は落ち葉による排水管の詰り等のトラブルを避けるため、陸屋根ではなく勾配のある屋根を用いるのがセオリーとされています。特に八ヶ岳山麓は本州では有数の寒冷地であり、北海道並みの凍害・つらら対策が必要になることからも、屋根に関しては勾配の強い、堅固で保守的な構造とする必要があります。
一方で屋根形はフラットな陸屋根に比べて幾何学的に複雑であるため建物のプランを束縛してしまい、単純な形の平面しか作れなくしてしまう傾向があります。
勿論、複雑で自由な平面形に対して幾何学的な整合を気にせずにとにかく屋根を掛けてしまうことも出来ますが、恣意的な平面形に、さらに恣意的な屋根形を掛けてしまうようなことはしたくないと考えています。出来れば何らかの意味のある平面形にシンプルかつ無理なく屋根を掛けてやりたい、あるいは屋根が自然に載るような性質を持ち、かつ意味のある平面形を探してやりたいというのが設計の出発点です。
では、この建物に対して意味のある平面形とは何か。これを導きだす鍵となったのが
1)広い敷地とその無方向性 2)ホール付き山荘という用途から想像される利用者の多様性 3)増築可能な建物との要望
という三つの要素でした。
1)について。敷地は約千坪と広く、森に囲まれており、ある方向に対して景観が開けていたりすることがありません。建物を建てるに当たって隣家などの制約もない代わりに、こう建てるべきだと言う指針も見いだしづらい、言わば抽象的で方向性の少ない敷地です。直感的に、この敷地には方向性のない、あるいは逆に全ての方向を向いているような、そういう建物がふさわしいだろうと感じていました。
2)について。音楽ホールのある山荘という要望から、この建物が家族だけのためのものではなく、合宿やリサイタルなどの目的で様々な人に使われることは明らかです。そのように家族にとって様々な心理的距離のお客さんを受入れる建物であれば、それぞれの人間の居場所はある程度その心理的距離に配慮したものになる筈です。ホールのすぐとなりにお客さんの寝室があるわけには行かないし、お客さんの寝室と家族の寝室は多少離したい。そのような要望を積み重ねて行けば、この建物はまとまった一つの形の建物というよりは、ある程度機能ごとに離散しているものになるだろうという予想が立ちます。
3)について。建物の建設については、何回かに分けての工事が希望されました。一度で完成するのではなく、初めはホールと簡単な宿泊設備から、だんだんゲストとホストの宿泊スペースを拡張していこう、というものです。これを単純にホテルの別館のようにつなげて行くことは簡単なのですが、出来れば増築によっても建物自身の本質が揺らがないような方法を考えたいと思いました。
以上を踏まえた上で、後はひたすら考えるのみです。計画開始から一年半が過ぎ、ある日電車の中で思いついたのが上述の環状案でした。
この環状案を言葉で説明すると、「一つ一つは単純な長方形平面の屋根形が、それぞれ角でつなぎ合わせられてぐるりと一周し、輪になっている」ということになると思います。建物を構成する要素は五つのブロックにまとめられ、それぞれは単純な長方形平面の中に納められているため、非常に簡単に、シンプルな屋根をそれぞれのブロックに掛けることが出来ます。
これらのブロックを環状につないだことで、それぞれのブロックは異なった方向を向き強い独立性を持つ一方で、全体として敷地の全方向に放射した形を持つことになります。また、ブロックのうち増築の必要なものだけを放射状に継ぎ足すことで建物の基本的な性格を変えることなく増築を行うことも可能になります。
このように、環状案は屋根というテーマと上記平面形への三つの要求を同時に満たしているのですが、それだけではありません。各ブロックが外に向かって開き、内には中庭を形成するため、一つ一つのブロックは四面全てに窓を作ることが出来、極めて透明感の高い建物にすることが出来ます。内観のCGを見て頂ければ、あるブロックの窓からとなりのブロックの窓を視線が貫通し、さらにその向こうの景色までが見える様子が分かると思います。
長くなってしまいましたが、敷地と建物の特性を生かした、その上ポテンシャルの高い案だということがお分かり頂けたでしょうか。この案の導入で、建物を支えるバックグラウンドの部分は揺るぎなくなったように感じています。今は、そのバックグラウンドを表現する形を如何にしてリファインするか、それを考えながら作業を続けています。
2009.08.10 |
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