2011.03.31
年度の最終日なので、少しだけ明るい話題を。雑誌「すまいの手引き」掲載のため、F-WHITEの撮影をして頂く機会がありました。



竣工時の綺麗な写真を載せてもらうのもいいものですが、生活の馴染んだ状態をわざわざ撮影に来てもらえる機会と言うのも嬉しいものです。主立った写真のアングルや時間帯はどうしてもこれまで撮った写真と似て来てしまうのですが、今回はその他にも今まであまり取り上げられなかった部分を撮って頂きました。



例えばキッチンのギミック。沢山のお皿を配膳する際などに便利なよう引き込み式の作業スペースを作ったのですが、結局あまり使われてはいないので、これまで取り上げられることはありませんでした。まあ、こんなことも出来るんだよという感じでしょうか。



玄関からお父さんの隠れ処へ通じるアプローチ。

あえて玄関の反対側に和室を作ることで靴を履いて渡らなければならないようにし、心理的に少し遠い離れのような空間にしようと考えました。あるいは、茶室に至る路地のような感覚と言えばいいのでしょうか。編集のNさんにお話したところ、面白がって下さり、ここも撮影することになりました。



Fさんは既に何度も撮影を経験されているので、このような状況には慣れっこになっています。上は我々が建物を撮らせてもらっている間、中庭でくつろぎながらメールのチェックをしているところ。このシーンも、編集のNさんが面白がってカメラマンさんに写真を撮ってもらっていました。採用されるのかな?

今回撮影して下さった新建新聞社では雑誌「すまいの手引き」とその別冊「いい家のつくり方」の二冊をこれまで発行してきたのですが、この4月から二つを統合し、新たに「すまいの手引き」として新創刊することになっています。

今回の取材はその最初の企画の一環であり、順当であれば4月中に発売予定だったのですが、地震のせいで少しスケジュールに変動が発生しているようです。掲載されたら、また改めて話題にしたいですね。



今回の撮影は地震の直後と言う事でちょっと実現が危ぶまれたのですが、幸いF-WHITEは頑丈かつ平屋なので被害がなく、予定通り無事撮り終えることが出来ました。

しかしながら柏市全体での被害はやはり小さくなかったようで、ところどころにブルーシートの被せられた屋根や、くずれたブロック塀が見受けられます。上は撮影の日の夜、Fさんから送って頂いた柏神社の鳥居の様子。改めて大きな地震だったのだと実感し、胆の冷える一枚でした。

2011.03.31
 2011.03.22
「白井晟一展」レポートが掲載された「建築技術」4月号が発売されました。



内容に関してはあまり詳しく触れらないのですが、白井晟一展を紹介した上で彼の作品、特に書の作品を論じ、その創作活動の中核を探ろうとしています。

その上で、その中核が以前から私が興味を持っているテーマである「視覚障害者の作った建築」と相通ずる点を持っている・・と話題を展開させています。短い文章なので突っ込んだ議論にはなっていませんが、今回のレポートを通じて、改めていずれ考えをまとめてみたいテーマだと思いました。是非ご購入の上、ご覧になってみて下さい・・。

2011.03.22
 2011.03.18
地震から一週間が経ちました。

ご親族やご友人を亡くされた方を初め、被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。また、各種救助・復旧作業に従事されている皆様には、作業の安全と成功をお祈り申し上げたいと思います。

本来ならもっと早く哀悼の意を表するべきだったと思うのですが、想像を絶する規模の災害と混乱の中で、自分が社会の危機に対して何かを発信することが適当なのかどうかがよく分からなくなっていました。

建築の設計のように社会とつながりの深い仕事をしていると、社会と自分との関係についてはしばしば考えさせられることがあります。しかしそれらの考えが基本的には自分が社会から受入れられ、何かを得る為にはどうしたらいいか・・という角度からのものばかりであったことは、今回「自分が社会の為に何が出来るか」を考えさせられる機会を得て、ほとんど初めて気付いたように感じています。

連日テレビでは被災地の苦境や原発での奮闘が報道されており、それらに切歯扼腕しながらも何も出来ない自分の無力を痛感する日々を送っています。出来る事と言えばほんの少しの寄付程度・・。社会の危機に対して、自信を持って提供出来る何かがないことのつらさを、初めて深く感じる機会となりました。いつかこの借りを返す事が出来るよう、自分の果たせる社会的な役割は何なのか、考えて行きたいと思っています。

2011.03.18
 2011.03.01
雑誌「建築技術」から記事執筆の依頼を頂き、展覧会を見に行ってきました。汐留ミュージアムで開催中の「建築家 白井晟一 精神と空間」展です。



白井晟一は我々の業界内ではよく知られた建築家なのですが、一般でご存知の方はまずいないでしょうね。もうすぐ没後30年になるのだそうです。

人物の詳しい説明はwikipediaに譲るとして、ここではとりあえず、1950年代〜80年代にかけて当時の主流たる近代建築の流れに全く反する作風を世に問うた人だとご理解下さい。独自の解釈による前近代的洋風スタイルを押し出す一方、非常に個性的な和風建築も手掛け、さらに書家でもあるという多様な面を持っており、単純に説明することが非常に難しい人なのです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/白井晟一

出来れば展覧会の内容を紹介したいのですが、残念ながら館内は撮影禁止。文章も既に書き上げてしまっているのですが、それを掲載前に載せてしまうのはさすがにマズいですよね。さて、どうしようかな・・



今回レポートを書くに当たって、都内の白井晟一の作品を幾つかおさらいして回ってきたので、ざっとそれを紹介しようかと思います。白井晟一を見るのは学生の時以来ですね。懐かしい・・

まずは六本木にある「NOAビル」。目立つ場所にあるので、ご存知の方も多いかも知れません。オフィスビルなのですが、窓は異常に少なく、印象はむしろ城塞という感じ。オフィス部分を見る事は出来ないのですが、一体どうなっているんでしょうね。



エントランス上部に仕込まれた照明と、それを映り込ませる異常に艶やかな石の壁です。なんとエロチックな。





変わってこちらは渋谷駅から徒歩10分、高級住宅地の一画に建つ「松濤美術館」です。う〜ん、こいつも城塞だなあ。



館内最大の見せ場、中庭に仕込まれた池を渡るブリッジです。非常に劇的である一方、これが殆ど内部の展示と無関係に存在しているのがいかにも白井さんらしい。



そして浅草にある善照寺本堂。こちらは一転して和風なのですが、全く独自の解釈でアレンジされています。屋根の妻側から入るお寺といえば、長野の善光寺とこの建物くらいなもんじゃないかな?



ドアの真ん中に取付けられたノブ、イタリアのヴェネト地方では割と良く見かけます。これをお寺に使ってしまうのが白井さんなんでしょうね。不思議にマッチしています。

実はこの白井晟一という建築家の作品については以前から「あること」が非常に気になっていて、今回の展覧会レポートではそれを取り上げようかと考えていました。それは建物の裏と表で、異常にお金と労力の掛け方に差がある、という点です。

建築家は誰しも見せ場にお金を投入し、見えない部分のお金は削りたくなるものなのですが、この人の落差は激しい!例えば佐世保の親和銀行本店では、分厚くスムーズな石材を玄関周りにはふんだんに使用する一方、裏側はむき出しのコンクリートに一番安い塗装を吹き付けただけで片付けられていました。何とウラオモテのある人だ!という感想と同時に、これは何か露悪的な意図すらあるのではないかと感じたのを鮮明に記憶しています。



上は上記NOAビルの裏側です。窓一つなく、平板なプレキャストコンクリートに塗装しただけの仕上げで、樋はただの塩ビパイプ。石材をカーブに沿って丁寧に切り出した正面とは雲泥の差があります。見せ場とそれ以外を分離し、切り捨ててしまった部分が見えてもそれは構わない!どうせ写真では撮らないんだから、という姿勢がはっきりと伺えます。

一方、勝負どころでは他と比べ物にならない程の労力と予算を投入することで、彼の作品が圧倒的な印象を獲得しているのも確かです。

こういった資金投入部分は非常に写真映えするため、その重厚なイメージがメディアを通じて広く敷衍しており、そのようなイメージの集積がかつての白井晟一像を作り上げ、現在も生き続けています。結果的に、白井晟一と言えば神秘的な建築家として知られることとなり、今回の展覧会もそういう意味では白井晟一神話を肯定する側から用意されたものでした。もちろん、それはそれで非常に見応えがあり、現代の軽薄短小な建築に対してぶの厚いアンチテーゼとなっていることは否定出来ません。

一方で、そろそろこの白井晟一神話におつきあいしないところから語るのも、ものの見方として大事なことなのではないかなあ・・というのが展覧会における私の最も率直な感想でした。少なくとも彼の建物を生で経験している私にとっては、神話と同時にその裏側も見てしまっているわけであって、どちらかというと神話を支えていた裏の方に関心があります。逆にいまさら白井さんと同時代に戻って、神話の内側から白井晟一を論じることはあまり自分自身の創作にとって参考にはならないと考えています。

この「白井晟一の建築の裏側」というテーマはそのような関心から是非掘り下げてみたかったのですが、限られた文字数の中ではどうしても中途半端な糾弾記事のようになってしまう恐れがあると判断し、今回は別のテーマで白井晟一論を書きました。ちょっと残念でもあるのですが、いずれまた十分な誌面で白井晟一を論じる機会があれば、再びトライしてみようと考えています。再度の出会いが楽しみですね。

なお、汐留での展示は3/27まで、まずは神話体験への導入として、是非見て頂きたい展覧会です。

http://panasonic-denko.co.jp/corp/museum/

2011.03.01
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