2011.08.25
前回8/4のブログでスペインの雑誌「Eikyo」にF-WHITEが掲載されたとお伝えしましたが、(スペイン語だと)何が書かれているかさっぱり分からないと書いたところ、なんと友人が日本語訳を作って送ってくれました。



訳を作ってくれたのは高校時代の同級生・Mくんです。ブラジルに在住経験があり、ポルトガル語に堪能な彼ですが、スペイン語もかなり分かるということで、トライしてくれました。ありがとう!

以下はその全訳です。所々微妙な表現があり、それが建築独自の用語や言い回しなのかが分からないので直訳にしているとのことですが、伝えようとしていることは大体分かる気がします。
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F-whiteは東京郊外にある小さな一戸建ての建物です。あんまり人気がない、ずっと駐車場として使われてきたかのような長くて狭い区画に建っています。 この魅力的とは言いがたい土地を購入した家族は怯まずに、 若い建築家山本卓郎に家の建築を依頼しました。それは一階建ての家で 「一つの広い部屋のようにも解釈でき、芝生や植物がある庭を持たない」 という一連の作業を要求されています。

この条件を満たしながら予算を抑えるために最初に決定されたのは 窓が少ない家の部屋を光で満たすため、空に開放された中庭を作ることでした。 回りの景観との兼ね合いも考慮すると、この決定は理に適っています。

しかし問題点は、もし限られた幅の長方形の庭を壁に平行で設置してしまうと、 空間を二つに分割にしてしまい連続性が失われてしまいます。 そこで、すこし変化させて長方形の庭を傾けた角度にしました。 これで部屋のそれぞれの隅にも有効な空間が生まれます。

生活を楽しむために、応接間とダイニングと台所を一つの環境に 配置し、二つの寝室と、和室と、お手洗いと、ピアノのための 小さな部屋が家の中にあります。 美しさと静寂をもたらすために、内部は申し分のない組み合わせの 限られた色と材料で作られています。

白色と温かみのある木材の庭の敷板、床、家具、天井が 調和がとれて心地のよい空間を作り出しています。 家のどの場所からも、他の空間を楽しむことができます。 もちろん、どの場所からも空の青さも楽しめます。

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如何でしょうか。

確かに訳を見てから原文を読むと、なんとなくそんなことが書いてあるような気がするから不思議です。内容には細かいところで誤解がありますが、この建物の基本的な考え方は伝わっているようですね。少なくともとんでもないことは書かれていないようなので、その点少しホッとしました。お盆休みにわざわざ訳を書いてくれたMくん、ありがとうございました。

あとは韓国語の分かる人がいるといいんだけどなあ・・。日本語に近い言葉のはずなのに、実はハングルが一番何が書いてあるか分かりません。自分で勉強するのか?

2011.08.25
 2011.08.04
スペインの日本文化紹介雑誌「Eikyo」にF-WHITEが掲載されました。



タイトルの微妙さといい、フォントのインチキくささといい、実にいい感じ。外国人の体内を経由した日本文化が醸し出す独特の香りがよく出ています。



F-WHITEの掲載はたった1ページですが、別に建築の雑誌ではないのでこんなものでしょう。伊東豊雄氏が3ページ、坂本龍一氏も3ページで紹介されていることを思えばむしろ健闘していると言えるかも知れません。

内容は全文スペイン語かつテキストは編集者の名前になっているので、何が書かれているかはさっぱり分かりません。まさしく神とスペイン人のみぞ知るという感じです。



上は「Eikyo」のHPです。最近創刊されたばかりの筈ですが、既に第二号が出ているんですね。表紙は草間弥生か・・。怖い雑誌と誤解されてしまいそうな迫力です。

http://www.eikyo.es/la-revista/



その他の記事です。映画で取り上げられていたのは「おくりびと」。



坂本さんはやはりスペインでも有名なんでしょうね。その他、村上春樹や無印良品、宮崎駿なども取り上げられています。いかにもというラインナップ。



もちろん、現代の文化だけでなく日本の伝統(?)文化も取り上げられています。上は「HANAMI」を紹介する記事。しかし、スワンボートが普通にフィーチャーされているのは果たして本気なのか狙っているのか・・。彼らの目にはこういうキッチュさがむしろ日本らしく思えるのかな?

と言うわけで、何故この雑誌に私が載せてもらえたのかは今でもよく分かりません。どういう人が買って読むのかも想像がつきませんが、スペインの本屋さんでは普通に店頭に並んでいるのでしょうか・・。日本に輸入されることはまずないと思いますが、まかり間違ってどこかで見かけた場合には、是非ご覧になってみて下さい。かなり楽しめると思います。

2011.08.04
 2011.08.01
千葉学氏設計の大多喜町役場増築棟、内覧会に行って参りました。数年前に行われたコンペで妹島さんらを制して千葉さんが獲得した、言わば業界注目の物件です。



上は既存庁舎から見た外観です。増築棟という性質上、建物の正面は旧庁舎が担っているため外観の印象はやや控えめ。まだ建物の周りには仮設事務所が残っているので、それらが撤去されればまた印象は変わるかも知れません。



内観です。正方形平面の大空間を斜めに飛ぶ梁が支え、そこにトップライトからの光が差し込みます。大空間は執務スペースと受付カウンターに占められ、中央に配置された書庫の上部はちょっとしたロフト空間となっていて、そこを経由して二階の会議室などへアクセスする構成になっています。



トップライトのクローズアップです。当日は残念ながら小雨まじりの曇天でしたが、晴天時には斜めになった梁に複雑な影を落とすことでしょう。

建物全体としては、ほぼ単純な大空間が要求されたようで、その意味では空間を個性的な構造が支え、そこに光が差し込むという回答は明快であると言えます。一方で、一瞥すれば理解出来てしまうコンセプトがこの建物の殆ど全てであるという点は、やや見応えの面で物足りないようにも感じられました。しかし、その部分は以下に記す既存庁舎が十分に補ってくれそうなので、その意味では新旧二つが組み合わせられることを見越してシンプルな構成が選ばれているのかも知れません。

ここで触れられた既存庁舎、実は我々早稲田大学建築学科のOBにとっては特別な思い入れがあります。この建物、つまり大多喜町役場本庁舎は早稲田大学の伝説的なプロフェッサーアーキテクト・今井兼次の設計によるものであり、早稲田の建築学科卒業生は誰もがこの建物の図面をトレースする課題を経験しているからなのです。



私自身も10数年前に見学に訪れ、一見オーソドックスに作られた建物へ異常なエネルギーが投入されていることに感銘を受けたものです。上は建物のシンボルである鐘楼、断面形が非常に複雑に変化する独特の形態です。作るのはさぞ大変だったことでしょう。



増築棟の反対側、既存棟の正面玄関です。長く張り出した庇を、互い違いに配置された柱と大きく蛇行する梁が支えています。入口周りの柱の本数を減らす事で足下を軽やかに見せるとともに車両の駐車を容易にするアイディア。非常に印象的であると同時に理にも適った素晴らしい意匠です。

既に建設からは50年以上が経過し、早稲田以外の建築界ではもはや今井兼次やその作品の名を耳にすることは殆どありません。増築棟の内覧に訪れた人々も多くは既存の建物について詳しく知らない様子でしたが、この庇には一様に感嘆の声を上げていました。



今井兼次の建物は彼の直感に基づいた非常に主観的な意匠が特徴です。大多喜町役場は彼の作品の中では比較的オーソドックスな構成を持っていますが、細部には過剰なまでに個性的な意匠がちりばめられ、中には不可解に思われるものすら見受けられます。

上は玄関上部天井に作られたトップライトの写真。ここにトップライトがあることは演出上分からないことではないのですが、そこにタワシ(?)が吊り下げられている理由を客観的に見いだすことは出来ません。学生時代には何だろう?と思いながらともかく図面をトレースしたのですが、実際に来てみて本当にタワシが吊ってあったので驚いたものです。初めての内覧客がビックリしている様子を見て、なんとなく優越感。

大多喜町役場は、この後既存庁舎の改修工事が始まるらしく、今回の内覧会はその合間をついたものでした。全ての工事が完了した暁には再び庁舎全体が一般に開放される筈なので、興味のある方は是非一度訪れてみては如何でしょうか。東京からちょっと遠いのが難ですが、日帰りの小旅行を楽しむにはお勧めです。

2011.08.01
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