2007.08.27
みかんぐみの曽我部さんのご自宅のオープンハウスがあったのでお邪魔して来ました。住宅のオープンハウスは久しぶりです。



この建物については、何はともあれまずロケーションから説明しなければ始まりますまい。

上写真のように切り立った崖の上の、しかも三角形の細い敷地に建物は立ち上がっています。その下もややなだらかながら崖が広がり、一面が草に覆われています。工事の際は崖の上から重機で杭を打ち、その上に建物の構造を乗せたのだとか。よく見ると、建物全体が崖から浮き上がっているのが分かります。



屋内は空間が全て螺旋状につながり、ほとんどドアの類いがありません。この写真は住宅の上部にある居間から、屋上へ上る階段を写したもの。学生を始め、かなり沢山のお客さんが来ています。



特徴的なのが、この写真に見られるエキスパンド・メタルの床です。なんと居間のど真ん中にあり、直下の階段と廊下に光を与えています。写真では分かりづらいのですが、居間は真ん中を境に数十センチの段差がありスキップフロアになっているのですが、このエキスパンド・メタルの床はいわばそのレベル差をつなく階段であり、同時に腰掛ける事の出来るたまり場を作り出しているようです。



下から見るとこの通り。当然女性がスカートを履いていたら丸見えですが、そこは個人の家ですから。

写真の左手には寝室があるのですが、寝室の窓からも柔らかい光がさしこむため、室内は全体にとても明るい雰囲気です。寝室との間には細かいヒモが一種の間仕切りとして大量に下げられています(寡聞にして何と言うモノなのか知らず)。勿論、目隠しとして機能するほどの密度はないのですが、それぞれの空間をやわらかく仕切る効果は十分に持っているようです。

これは建物全体に言えることなのですが、壁や建具で空間を細分化することは一切やめ、その代わり光を透過する材料で場所を作る程度に仕切る、という方針が通奏低音としてあるようです。その一つの形がエキスパンド・メタルの床であり、ヒモのカーテンであると考えていいでしょう。収納の入り口が扉でなくロールブラインドで仕切られていたのも、意外とすっきりしている上にその向こうにある空間の奥行きが感じられ、悪くないと思いました。







時間が経つと人の動きがとまり始め、居間の中心には人間が座り始めました。彼らの視線の向かいにはテーブルと窓を背にしたベンチがあり、両者が向かい合うことで空間の中に人間の輪が出来るようになっています。向こう側に見える階段もグレーチングで出来ており、やはり光を透過するように出来ている事が分かります。

既に建築雑誌で紹介されている住宅なのである程度構成などは知っていたのですが、写真で見るより実物の方がずっと印象的な建物でした。何よりもまずロケーションありきであったことがよく分かりますし、窓から崖を見下ろす景色や、家の隅々まで満ちた明るさは写真では分かりません。雑誌では原理原則や思想、ルールや図式といったものが図面から読み取れないところが気になっていたのですが、実物を見ると、そういう決めごとのなさは全く気にならず、むしろこの建物は徹底的に敷地というコンテクストからのみ生まれているのだという主張が感じられます。

個人的にはそれでもやはり何らかの思想的表明や図式の提案が欲しかった気はするのですが、その辺りは好みの問題かも知れません。それよりは、エキスパンドメタルやグレーチングなど、光を透過する床材の取り扱いが気になったかな・・。勿論足の裏に痛い素材なので、人間の歩く部分にはフェルトのマットを敷いたりしているのですが、そこからはみ出ることも多いですし、たとえ直接触れずとも異物を踏むイメージが心に残ってしまう気がします。

私は触感こそ建築を感じる上で最も本質的な感覚だと考えているので、その明るさの効果は認めても、触感を改善する工夫があまりない点には首をかしげざるを得ません。むしろどうせグレーチングの「痛さ」を取り除くことが出来ないのならば、いっそ毛皮など柔らかく官能的な触感を持つ素材と並べて極端に対比をつけるとか、そういうことを自分ならやるのですが・・。

2007.08.27
 2007.08.22
8/21発売「新しい住まいの設計」2007年10月号にH/Orangeが掲載されました。



しかし、世の中はもう10月号なんですね。毎日暑い中を汗をダラダラ流しながら仕事をしているので思いもよりませんが、ひょっとして秋物の服なんかも売り始めているんでしょうか。



10月号の企画はキッチン&バス特集でした。両方とも一般の読者にはかなりアピール出来るポイントなのに、専門家向け建築誌ではあまり重視されません。この企画で取り上げて頂けたのはなかなかありがたいと思っています。

写真では浴槽の傍にすました顔でテレビが立っていますが、工事の時はエラく大変でした。

ステンレスで回転する譜面台のような支持金物を作ってもらってそこにテレビを固定したのですが、どういうわけかパイプの中を配線がつまってしまって出て来ず、それを浴槽脇のメインテナンス用穴からひっぱり出そうとしたのですが手の短い人は届かない。「監督さんの方が手が長いから手を突っ込んでくれ」とか言いながら電気屋さんと監督さんが散々苦労して配線してくれました。

その後電気屋さんがDVDラインの配線を忘れていたことが判明して、もう一度アレをやるのか!と騒然となったことがあったのですが、その時はめでたく収納の奥に入れていたチューナーボックス(やはり手の長い人ががんばって取り出しました)の方をいじる事で配線が出来ました。そもそも、もともと予定していた配線ルートの配管がコンクリート打設の際に埋まってしまったせいで配線が難しくなったんですよね。今となっては笑い話ですが、当時はみんな青くなりました。



今回は住宅のタイトルの由来になったオレンジ色が分かりやすく写真に表れていました。文章を書かれた市川さんや編集のMさんが素早く的確に建物のコンセプトを理解して下さったので、取材は概してスムーズに進んだと思います。



なにはともあれ、取材を許可して下さった施主のMさんご夫妻と「新しい住まいの設計」関係者各位にお礼を申し上げたいと思います。これを見て当方の仕事に関心を持って頂いた方がおられればいいのですが・・。

なお、巻末に載った顔写真は見事に悪人面でした。かなり頑張って笑ったのですが。

2007.08.22
 2007.08.13
8/10のブログでお伝えした八ケ岳での日程の最中、突然大学時代の研究室の同期生から招集がかかりました。同期生の一人が京都駅を設計した某有名建築家の設計事務所に所属しており、彼は福島県の某地方都市で中学・高校校舎の現場監理の仕事に携わっていたのですが、その仕事が竣工したので、引き渡し前に見に来ないか?と連絡があったのだそうです。

仕事柄、同期生の間では卒業後もお互いの仕事を見学したり、話題の新しい建物を皆で見に行ったりと交流は続いていました。特に今回の物件に関しては仲間内の仕事としては圧倒的に大きな規模であり、皆の関心も高かったので是非車を手配して見に行こう!ということで招集がかかったようです。なにしろ大規模な建築物を設計担当者自身の案内で見て回れる機会などそうはありません。そういうわけで、お施主さんには無理を言ってお願いして八ケ岳からは一足早く失礼し、その日の夜の内に新宿から福島県へ向かう事になりました。



深夜に新宿をスタートしたのですが、結局渋滞につかまって到着は朝の7時。快晴の朝日が目にしみる中、早速建物の見学を始めました。



本物件は中高一貫教育の学校校舎で、約1000人の生徒が在学する予定だそうです。体育館棟・中学棟・高校棟の三つが平行に並び、それらの周囲にクラブ活動の為の施設や格技館が配置されています。まだ建築雑誌などに掲載されていないものを勝手に発表してしまうわけにいかないので、ここでは匿名の建物として紹介しています。



建物遠景です。グラウンドは現在整備中。



一休みの後、昼から見学を再開。中学棟と高校棟の間の中庭です。



校舎内の大廊下とそれに至る大階段です。某有名建築家の作家性が最も表れている部分なのですが、この写真では分かりにくいかも知れません。手前に二階から一階へ下りる大きな階段(某京都の駅のような)があり、その向こうにはにぎやかに変化する曲面壁がつながり、幅広の廊下となっています。左手には教室が並んでいます。



二つの体育館の間には巨大な屋根付きの中庭が挟まれ、三つは一直線に並んで一つの体育館棟となっています。冒頭の写真は体育館棟全体を前面道路から撮影したもので、直上の写真は中庭を反対側から見下ろしたものです。緑色は、人工芝。



屋上のレベルには様々な形の小教室が並び、それぞれがガラスのブリッジで接続されています。上は角餅が焼かれてふくれた形の小教室。どこかで見覚えがあるような・・・。他にも転んだ多角形や平行四辺形など、様々な形がにぎやかに屋上を埋めています。

この規模の建物なので、ここではほんの一部分しか紹介出来ません。我々は午後も3時間以上見学し、満腹になるまで細部を堪能しました。某有名建築家の作家性は遺憾なく発揮されていて、建物はほとんど繰り返しのない異なった性質を持つ形態の集合で出来ています。さぞ設計管理の担当者は大変だっただろうと感じました。自分にはこの規模の建物をこの密度で作り込むことは果たして可能だろうか?と思うと、ちょっと自信がありません。その圧倒的な仕事量には頭が下がる思いです。

また、様々な形態要素が無秩序なほど高密度に表れては消える独特の建築スタイルが、強烈な日差しのもとで豊かな光と影の変化を作り出していたのはとても印象的でした。このくらいの規模の建物であれば、退屈な秩序よりも多様な形態要素を持たせることが効果的であるようです。その辺りは、ちょっとル・コルビュジェ設計のラ・トゥーレット修道院に通じるものがあるかも知れません。

一方で様々に表れる形が単に外見を面白くするための操作であり、内部的な必然性や効果とほとんど無関係に決められている点については、同意しかねるものがあります。この辺りは彼の作品スタイル全体を通じて言えることですが、概して外見がおもしろおかしいだけのハリボテで、こう言った形態の連続が彼の主張するほど本質的に人間を動かし、アトラクトする要素になっているかどうかは大いに疑問に思われます。



その後はせっかくなので、地元のその他の建物を見に行きました。上写真は江戸時代後期に建てられた某さざえ堂です。珍しい建物なので、ほとんど匿名にしている意味がない?



内部が二重螺旋になった塔のようなお堂ですが、信仰の対象というよりは一種のエンターテインメント施設という感じです。内部には各所に展示ブースがはめこまれ、ブース内には神様?の画像などが飾られています。それらを眺めながらスロープを登り、頂上に達して下りて来るようになっています。

極めて稀な構成と内部空間により日本建築の中でも知る人ぞ知ると言われる建物(ちなみに重文)ですが、実物には何とも言えないキッチュ感とサブカルチャー感があり、建築というよりは何かのインスタレーションに近いように感じられます。室生寺の五重塔なども建築と言うよりは模型に近い感覚がありますが、質こそ違え日本建築には、海外の建築にはない建物とそれ以外のものとの閾の低さのようなものがあるように感じられました。

結局、今回の小旅行は深夜出発深夜帰投で0泊2日という強行日程だったのですが、あまり寝なかった分ひどく長い旅だったように感じられました。東京に戻った時には懐かしさすら憶えたので、どうやら日常から十分離れることが出来たようです。思いがけず夏休みらしい旅が二つ続いたので、お盆は腰を据えて仕事をこなそうと思っています。

2007.08.13
 2007.08.10
八ケ岳に行って来ました。



実は急に別荘の仕事の依頼を頂いてしまったのです。

同世代の建築家が次々と別荘を手掛けているのを横目で見て刺激を受け、是非機会があれば自分も別荘をやりたいと願っていたのですが・・。そら恐ろしいほどの絶妙のタイミング。張り切らない筈がありません。千載一遇のこのチャンスを生かして、何としてもいい建物を作ろうと考えています。

敷地は八ケ岳南麓の、分譲された別荘地の一角にあります。十字路の北西に位置する敷地の面積は、なんと約3300m2。この辺りでは珍しくない広さのようですが、主に都市圏で住宅を作っている私にしてみれば、これまでで最大の敷地面積ということになります。



敷地はゆるく南に向かって傾斜しているのですが、現状は樹木が鬱蒼と茂っているため敷地内はやや暗めで、内部から写真を撮ってもなかなか絵になりません。しかしながら、幸いアトリエ・ワン在籍時に「黒犬荘」を担当したことがあるため、建物が建つ事で森に光が差し込むスペースが生まれ、敷地がずっと明るくなることを経験的に知っています。おそらく、木漏れ日あふれる美しい場所になることでしょう。



面白いのは、敷地の随所に火山岩らしき岩塊が露出している点です。フランク・ロイド・ライトであれば「これが暖炉の床になるのだ!」と叫ぶところでしょう。確かに野趣あふれる素材で、こう言った土地を特徴づける材料を如何にして使うかはプロジェクトの大きな鍵になりそうです。



もうひとつ面白い(?)のが敷地内にある大量の蟻塚です。

上の写真のような直径40cm、高さ20cmほどの蟻塚が敷地の至る所にあります。小さいものを入れると数十個はありそうですね。別にこれが建築的に面白いわけではないのですが、こんなスゴいものを見たのは初めてなのでかなり興奮しました。誤って足を踏み入れると、ものの数十秒のうちに下半身がびっしりと蟻にたかられてしまいます。ライオンが本当に殺されるのかどうかは分かりませんが、かなりおっかないものだと言うのはよく分かりました。

そういうわけで実際に住むにはちょっと迷惑な存在なので、何らかの形で彼らにはご退去願う必要があるのですが、薬で全滅させてしまうというのも山荘というものの理念からして美しくありません。上手く蟻とお施主さんとが共存出来る方法があればいいな、と思っています。敷地内で徹底的に殺しても、隣の敷地で巣を作った時に手が出せませんし・・・。案外、そんなところが設計のスタートになるのかも知れません。



敷地の近所には、吉村順三設計の八ケ岳音楽堂もあります。今回の別荘計画では音楽演奏の出来るスペースも希望されているため、別荘建築の名手である吉村順三の音楽堂は、お施主様と建物に対する考え方を共有する際の基準になりそうです。この建物については、いずれまたブログで紹介したいですね。



ともあれ、計画の細かい事は今のところほとんど何も決まっていません。まだしばらくはスケジュールに余裕がありそうなので、じっくりとアイディアを練ろうと考えています。

2007.08.10
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